その唇に魔法をかけて、

「おじさん、もうやめましょう」

「誠一……」

「実は響也をここに呼んだのは僕なんです。そして期待通りに響也はここに来てくれた」

 そう言うと藤堂は椅子から立ち上がり力なく笑った。

「ほかの男に心を奪われたままの女性を自分のものにするなんて、そんな戦国武将な真似ごとは僕の趣味じゃない。それに、深川総支配人も隠居を考えるにはまだまだ早すぎませんか?」

 そう問われて、政明は否定も肯定もせずただ低く唸った。

「龍也おじさんがこのタイミングで黎明館の総支配人にいきなり現役復活したのも、ちょっと妙だと思っていたんです。おじさんは、ずっと深川さんがバリバリ働いてる姿に影響されていたんでしょう? 僕だって、許嫁を利用して踊らされるなんてまっぴらごめんです」

「ぐ、ぬぬ……」

 予期せず藤堂に図星をさされ、バツが悪くなった龍也は拳を握って押し黙った。