その唇に魔法をかけて、

「おい。その端金に手出すんじゃないぞ」

(え……?)

 今、この場で聞こえるはずもないその声に、はっとなって顔をあげる。振り向くと、その視線の先に、困惑したグランドシャルムの従業員を無視して部屋に乗り込む花城の姿があった。

「は、なしろ……さん?」

 放けたままの口から無意識にその名前がこぼれる。

「な、なんでお前がここに……!?」

 あまりの驚きに上ずった声を出しながら、龍也は立ち上がって色眼鏡を勢いよく外した。そして信じられないものを見ているかのように何度も瞬きをして目をこすった。政明は現状が理解できずに口をパクパクしている。

「なんとか間に合ったみたいだな」

「花城さん? どうしてここに?」

 台湾にいるはずの花城がなぜこんなところにいるのか。いまだに驚きを隠せず目を点にしていると、花城が不敵に口元を歪めた。

「お前を攫いにきたに決まってるだろ」

 飄々としている花城に、停止していた思考が緩慢に動き出す。そしてじわじわと沸き起こる喜びに自然と顔が綻んだ。冷めきっていた心にぬくもりが広がっていく。