「あら! もう着替えてたんだ」

 鏡の前で着物の合わせ部分が中心になっているかチェックしていると、更衣室のドアが開き、気っ風の良さそうな四十代くらいの女性がにこにこしながら入ってきた。

「あなたが深川美貴さん?」

「は、はい」

「私は仲居頭の畑野かえで。よろしくね」

 元気の良さそうな粋な女性だったが、身の内から溢れんばかりの気品とその雰囲気に美貴は思わず見蕩れた。

「あんた、自分で着付けができるんだね? 様子を見てこいって藤堂さんに言われてきたんだけど大丈夫みたいだね」

「お気遣いありがとうございます。でも、髪型がわからなくて……」

 仲居の髪型は雑誌や写真で見たことはあったが、実際にどうすればいいのかわからず、美貴は肩下まであるクセのない髪の毛を持て余していた。

「じゃあ、今日だけやってあげる。簡単だからちゃんと覚えて明日から自分でやるのよ?」

「はい、すみません」

 美貴はかえでに髪留めを手渡すと、後ろを向くように言われて全てを委ねた。

「あんた、東京にあるグランドシャルムのお嬢さんなんだって?」

「え……? は、い」

 あまり自分の身元を知られたくはなかったが、直球で聞かれて美貴は正直に答えてしまった。