その唇に魔法をかけて、

「えーっと。本日お越しになるお客様で小さなお子様連れの家族がいらっしゃいますので、お食事の方をキッズメニューに変更してください」

「わかりました。深川さん、じゃあ子供用の椅子はどうしますか?」

「あ。子供用の椅子は大丈夫です。お食事は部屋出しをご希望されているので。だから子供用の座椅子があったほうがいいかもしれないですね」

 美貴が黎明館に就職してから何人か新しい仲居が入ってきた。美貴ももうすでに立派な先輩の仲居だ。そして藤堂やかえでの代わりに朝礼を仕切ることもあった。

 あれから花城からはなにも音沙汰がない。便りがないのは元気な証拠という言葉を信じて、見知らぬ土地で頑張っている花城を想うと、自分も頑張らなければという気になった。

 けれど、やはり、花城のいない黎明館は物足りなくて立ち直るのに時間がかかった。

 そんなある日、美貴は珍しく総支配人室にいる龍也に呼び出された。