心の底から愛している女がいる――。

 そう言った時、美貴の傷ついた顔を思い出すたびに腹の底から叫びたくなる。今でさえ、机の上に山積みになった書類をすべてなぎ倒してしまいそうな衝動をかろうじて押さえ込んでいる。

 黎明館を世界規模で展開することは花城の夢でもあった。そのチャンスが今、目の前に巡ってきたのだ。これまでの功績を認められ、もう一つの黎明館を任されることは花城にとっても名誉なことだった。

 惚れた女よりも夢に生きる。自分はそういう男だ。美貴にとっても最低な男として映っただろう。だから、それでいい。

“心の底から愛した女”が自分の目の前から霞んでいくように、朧月になっていく月を窓を仰いでぼんやり眺めた――。