「まだ不安定な台湾にある黎明館のテコ入れ役に俺が出向くことになったんだ」

「そんな、話が急すぎて……。いつ帰ってくるんですか? 一週間? 二週間くらいですか?」

 できたばかりの旅館を短期間で整えられるはずがない。いつ帰って来られるかも見当がつけられないくらい長い間、日本を離れるということなのだ。と悟ったが、認めたくなくて美貴はついそんなふうに尋ねてしまう。

「……さぁな。お前、東京に帰りたいか?」

 背を向けた花城が向き直り、力なく笑った。花城は美貴を解雇する気でいた。

 そう察して、ぶんぶんと首を振った。

「東京に帰るくらいだったら……私も台湾に連れて行ってくれませんか?」

「……は? なに馬鹿なこと言ってんだ」

 だめもとで言ってみたが、案の定、一蹴されてしまいうなだれる。

「とにかく、お前は藤堂と幸せになれ、遠くで見守ってやるからさ。話は終わりだ、もう帰れ」

「……はい」

 ここはおとなしく引き下がろう。帰って頭を冷やす必要がある。そう思った美貴はいまさら気づいた自分の涙をゴシゴシとこすって、花城に頭を下げると部屋を後にした――。