その唇に魔法をかけて、

 そんな冗談みたいな話を真面目な顔で言わないで欲しい。

 美貴は花城の口から語られた事実を飲み込めずに呆然と立ち尽くし、頭の中で消化不良を起こしていた。

「藤堂はいい男だ。しっかりしてるし、経営者としては十分な素質がある。あいつもこの話に乗り気みたいだから、ふたりで仲良くやってくれれば……俺はそれでいい」

 花城の表情に一切の笑みはなかった。肯定的な言葉とは裏腹に、下ろした拳をぎゅっと握り締め、時折唇を小さく噛んでいる。

 その辛そうな表情に、本音はそうじゃない。こんなこと言いたくない。と思っているのではないかと一縷の望みを持ってしまう。

「私が好きなのは……花城さんです。藤堂さんじゃありません」

 もう一度気持ちをぶつけてみる。すると、花城は一瞬目を瞠って驚くも、すぐに冷淡な表情に戻る。

「だから言っただろ、お前を幸せにできるのは俺じゃないって」

「好きな人がいるから……ですか?」

 その言葉を口にした後、すぐに後悔した。花城の眉間に皺が寄り、あからさまに苛立ちを顕にしたからだ。

「なんだって……?」

 思わずその気迫に怯んでしまい、一歩、また一歩と後ずさるが、花城に追い詰められてしまう。

「す、すみません……前に、彩乃ちゃんに聞いてしまったことがあって……っ!?」

 拳が壁を打ち付ける激しい音がしたかと思うと、背中にひんやりと壁の感触がした。もう逃げ場は無い。恐る恐る顔をあげると、花城の鋭い目が食いつくように光って見下ろしていた。壁に両拳をついた花城に挟まれ、もう動くことすらできなくなってしまった。