その唇に魔法をかけて、

 時刻は午後十一時。

「美貴ちゃん。いや~助かったよ! ごめんね、帰るところだたんだろ? 手伝わせちゃって悪かったね」

「いいえ。とんでもないです」

 今日一日、藤堂とのことで思うように仕事にならなかった。

 ため息と付きながら帰り支度をしていると、料理長の木村から厨房の人手が足りなくて片付けだけでも手伝って欲しいと言われた。本当はすぐにでも帰りたいところだったが、おかげで藤堂とのことも考えずに済んだ。今度こそ帰ろうとしていると、木村から「ちょっと待って」と呼び止められる。

「さっき、総支配人とこにお茶持って行ったんだけど、もう一杯新しいの持って行ってやってくんないかな、多分まだ仕事してんじゃねーかな?」

 ここのところ花城は忙しなくしていた。花火大会からろくに話もしていない。花城も出張でいなかったりと、すれ違って話すらできない状況だった。

「わかりました」

 言われたとおり、花城の好きな冷えた緑茶に砂糖を入れ、久しぶりに会話ができる胸の高鳴りを抑えつつ、総支配人室へ向かった。