その唇に魔法をかけて、

 他愛のない会話が続く。許嫁の話を聞いて以来、なんとなく藤堂との空気をぎこちなく感じてしまう。やはり、心のどこかで意識してしまうのだ。ここで本人に直接聞いてみるのが一番手っ取り早い気もしたが、どうしても藤堂ではなく花城の口から全てを聞きたかった。

 顧客のチェックを終え、一息ついた時だった。藤堂がなにかを言おうと躊躇しながら口を開いた。

「あの……深川さん。僕の思い過ごしだといいんですけど……」

「はい?」

 その妙に改まった口調に視線を藤堂に向けた。

「少し前、総支配人室で僕と響也が言い争ってる時、ドアの向こうにいましたよね?」

 思いがけない藤堂の質問に、思わず手先がびくりと跳ねた。その反応を見て藤堂はやっぱりか、という顔をした。

「本当、嘘のつけない人だ……じゃあ、僕と深川さんが許嫁だということも知っている?」

 藤堂はうっすらと笑みを浮かべていた。まるで藤堂は自分の反応を見て楽しんでいるようにも思える。

 美貴はそんな藤堂の思惑を探ることができず、ただ俯いて黙るしかなかった。