その唇に魔法をかけて、

 盆の時期も過ぎると、一般的な夏休みもそろそろ終わりに近づいてくる。しかしまだまだ真夏の熱を含んだ風は、秋の気配を微塵も感じさせなかった。

 いつものように中休みが終わり、美貴が誰もいない事務所で今朝チェックアウトした顧客の確認をしていると、藤堂が部屋に入ってきた。

「夏休み中は忙しかったでしょう? 毎年、常連のお客様がこぞっていらっしゃいますので、深川さんもゆっくりできる時は休んでください」

 相変わらず癒されるような笑顔を浮かべて、藤堂が自分のペットボトルの水を一口飲む。

「藤堂さんもお疲れ様です。確かに忙しかったですけど、子どもが館内で迷子になったり……でも、やり甲斐は感じています」

「そうですか、それはよかった」