その唇に魔法をかけて、

「私、実は五歳の時に父に連れられて黎明館に一週間滞在してたことがあったんです。今まですっかり忘れてしまっていて思い出せなかったんですけど、花城さんに連れて行ってもらったプライベートビーチで思い出したんです。昔、ここに来たことがあるって……」

「なるほどね……やっぱり、あの時のちっこい子、美貴ちゃんだったんだ」

「え?」

 意外な言葉が返ってきて俯いていた顔をあげた。意外そうな美貴の顔を見て、かえでの形のいい唇が三日月型に笑む。

「私、黎明館の仲居歴長いのよ? その頃からもう仲居としてバイトしてたし。薄々美貴ちゃんって、あの時の子なんじゃないかって思ってたけど……中庭の桜の木の下とかでよく響ちゃんと誠ちゃんと三人で遊んでるの見かけたわ」

「そう、なんですか……」

 かえでが懐かしそうに柔らかに目を細める。ビールをぐびっと飲み干すと、かえでは美貴を真っ直ぐに見据えた。