その唇に魔法をかけて、

 淡々と語る龍也を前に、花城は信じられない気持ちで硬直していた。全身で話の内容を拒否しているようだった。そのせいか、龍也に時折相槌を求められても、花城は気の抜けた返事しかできなかった。

 美貴が黎明館に訪れた本当の理由は、藤堂を正式に許嫁として彼女に紹介するためだった。

 跡取りのいない深川政明には婿養子が必要だった。藤堂を婿養子にし、後のグランドシャルム総支配人として美貴の夫として迎え入れるということが自分の知らないところでずっと前から画策されていたのだ。

 藤堂誠一は優秀な人材だ。龍也としても失うのは惜しい存在だったが、グランドシャルムという有名ホテルの総支配人として返り咲くことができるなら、きっと彼の本望に違いないと龍也は考えた。

 すべての話を聞いたあと、胸糞悪い思いで花城は黎明館に向かい、朝礼前に彩乃と手話の練習をしていた美貴に出くわしたが、ろくに顔も見ることができなかった。そして総支配人室へ藤堂を呼び出し、花城はそこで抑えきれなくなった荒れ狂った感情を思わずぶつけてしまったのだった。