その唇に魔法をかけて、

「花城さん、また明日からも宜しくお願いします。花火大会楽しかったですね……ありがとうございました」

 とにかくこれ以上、花城を困らせない一心で笑顔を保つ。

「あのさ……いや、何でもない」

 花城はなにか言いかけたが、すぐに言葉を飲み込んで軽く首を振った。

「じゃあな、明日遅刻するなよ」

「はい」

 玄関のドアが締められると、今まで隔たりのなかった花城との空間に壁ができる。彼が遠ざかっていく足音が消えると、堰を切ったように美貴の目に涙が溢れ出た。

「っ、うぅ……」

 抑えきれない嗚咽を手で口を塞ぐ。今までこらえていたものがすべて一気に吐き出される。

 ローテーブルの上には、花火大会に行く前にメイクで使ったリップやマスカラがそのままになっている。花城との初デートに浮かれていた数時間前、こんな気持ちになって帰ってくるなんて想像もしていなかった。

「花城さん……」

 恋は甘くてときめいて、毎日が輝いて見えるものだと思っていた。しかし、実際は切なくてやりきれなくてどうしようもない感情に翻弄されて苦しかった。

「花城さん……」

 尻餅をついて両膝を掻き抱きながら、美貴は何度も想い人の名前を呼んだ。