その唇に魔法をかけて、

 本当はこんなこと言いたくなかった。しかし、総支配人室で藤堂と言い争っているのを聞いてしまった。

 美貴がそう言うと、花城は聞かれていたのだというショックを顕にし、今まで見たこともないような辛そうな顔をして視線を落とした。糾弾するつもりはないがその表情がすでに答えを語っている気がして胸がちくりと傷んだ。すると、花城が唇を噛んだ後、独り言のように口を開いた。

「……俺だってお前のこと――」

 その時、花城の語尾を遮るようにフィナーレの花火が大音量でどんどんと打ち上げられた。

(え? 花城さん、今なんて言ったの……?)

 花城の言葉が花火の音にかき消されても、その唇だけ何かを伝えようと小さく動いていた。けれど、すぐに唇は引き締められ、すっとあたりが再び暗闇に戻る。

「終わったみたいだな、帰るか」

「……そう、ですね」

「今なんて言ったんですか?」と聞き返したくても、さきほど告白した時のような勇気はもうない。それに、今ここで藤堂と許嫁のことを聞いても再び険悪な雰囲気になるだけだ。

 好きな人に額にだけでもキスされた。行きたかった花火にも行けた。それでもう十分だ。だから余計なことは言わない方がいい。と思いの丈をねじ伏せた。