その唇に魔法をかけて、

 黎明館に滞在中、そう言って藤堂を紹介された。しかし、美貴は優等生の鑑のような藤堂ではなく、やんちゃ気質の花城の方が好きだった。社交辞令の通用しない子どもは、好き嫌いがすでにはっきりしていて時に残酷だ。

 そんなある日、美貴は道場の桜の樹の下で泣いている花城の姿を見つけた。

 大好きなお兄ちゃんが泣いている。そう思うと慰めてあげたくて仕方が無かった。

「あの道場の桜の木の下で泣いていたのは……花城さんだったんですね」

「お前、変なことまで一緒に思い出すなよ」

 砂山の中で繋ぐ指先が温かい。花城は照れ隠しか、親指の腹で何度も美貴の指を撫でていた。

「あの時、お前に魔法をかけられた」

「え……?」

 ―― あたしが元気が出る魔法をかけてあげる。