その唇に魔法をかけて、

 記憶の彼方に忘れていた思い出が甦る瞬間は、まるで雷に打たれたかのように衝撃的なものだった。瞬きを忘れて放けている間にも、目の前でどんどん背を増した砂山が花城によって作られていく。

「トンネル……どうやって作るんですか?」

 デジャヴを感じながらそっと尋ねると、花城はやんわりと笑った。その笑顔が最後に甦った記憶の中の青年の笑顔と重なった。

「教えてやるよ」

 教えられた通り、砂山の左右から互いに手で穴を掘り開けていく。壊れ物を扱うようにそっと進んで、今にも崩れそうな砂山に緊張しながら互の指先を探る。

「ほら、捕まえたぞ」

 砂山の腹の中で、花城と美貴の指先が絡み合う。見上げると、花城の熱い視線にも捕まってしまった。

「花城さん。私……前にもこうやって花城さんと砂山作ったことありましたよね?」

「え……?」

 見開かれた花城の瞳に映っているのは、まだ少女だった頃の幼い自分の姿だった。

 思い出した。全て――。

 美貴が五歳だったその当時、父の政明に連れられて黎明館に一週間宿泊した。政明と龍也は仲がよく、まだ幼かったがゆえに父と水入らずで遊んでもらえるのだとばかり思っていた。しかし、結局、仲のいい経営者ふたりは酒を交えて尽きない仕事の話ばかりしていたため、つまらなくなってひとりで遊ぶしかなかった。そんな時、花城と藤堂に出会ったのだ。その時、父から紹介されたのは花城ではなかった。

 ――美貴、藤堂誠一君だ。頭もいいしかっこいいお兄さんだろう?