その唇に魔法をかけて、

「お待たせしました! すみません、待ちました?」

「……いや」

 花城との待ち合わせ場所は人目につかない道場だった。さすがに総支配人が特定の仲居とふたりで出かける姿を見せるわけにもいかない。しかし、人目を憚ってのお忍デートのような感覚に緊張のような興奮を覚えた。

 花城は夏らしく淡いブルーのデニムに白のオックスフォードシャツというラフな格好で、もちろんスーツ姿も格好良いが、普段見慣れない私服に心臓がとくんと跳ねた。

「なんだ、浴衣着てくるなら俺も甚平とか着てくればよかったな」

 縁側に足を組んで座っていた花城が、にこりと笑いながら足を崩して立ち上がる。すらっとした足が強調されて思わず見とれてしまった。

「浴衣ってこういう機会じゃないと着ないかなって……でも、普段も着物だし洋服にすれば良かったですかね」

 はにかんで笑うと、花城が指の背中ですっと美貴のほんのりと赤くなった頬を撫ぜた。

「……お前はそれでいい、可愛いよ、似合ってる」

「っ……――」

 花城のその甘美な声音に震えだし、思わず妙な声が出そうになってしまった。これでは心臓がいくつあっても足りない。乱れる心音を整えるべく、胸に手をあてがって何度も深呼吸した。