その唇に魔法をかけて、

 週末に行われる花火大会は、雑誌にも取り上げられるほど人気の高い催し物だった。金曜の午後にもなると、花火大会目当ての宿泊客が続々とチェックインしてくる。

「うわ~忙しくなりそうだね! 花火大会の影響すごすぎ!」

「彩乃ちゃん、お疲れ様」

 リネン室で美貴がひとりでシーツや枕カバーを整えていると、彩乃が手でパタパタと仰ぎながら入ってきた。

「私も手伝うよ。この量尋常じゃないから」

「ありがとう。でも彩乃ちゃんも仕事あるんじゃないの?」

「かえでさんにこっちのヘルプに行くように言われたの、だから大丈夫」

 換気扇をフルに稼働させているが、窓もないリネン室には熱気がこもっていて額にうっすらかいた汗を手の甲で拭う。

「ところでさ、美貴は花火大会どうするの?」

「え? どうするって……」

「また誤魔化しちゃって」

 興味津々に彩乃がニヤニヤしながら笑っている。その言葉の裏には「花城と行くのか?」と言う意味が滲み出ていた。