その唇に魔法をかけて、

「僕と深川さんが許嫁のままで、それで響也は納得するのか?」

(え……?)

 突然飛び込んできたその言葉に、頭の中が一瞬にして真っ白になった。

(許嫁……って? 私と藤堂さんが?)

 次第に盆を持つ手が震えだす。これ以上ここにいてはいけないと頭ではわかっているのに身体がまるで石のように固まって動くことができなかった。

「誰かそこにいるのか?」

「っ!?」

 花城の鋭い声にビクリと身体を震わせる。部屋の向こうから足音がこちらへやってくる気配がして、美貴は咄嗟に廊下の陰に身を潜めた。

 そっと陰から覗いてみると、部屋の中から花城が出てきてしばらく無言で辺りを見回していた。呼吸さえも勘付かれてしまうのではないかと、息を止めて花城が再び部屋に戻るまでやり過ごした。