友人たちを見送り、ひとりになった美貴は空港内のロビーでスマホをいじりながら迎えの車を待っていた。すると、ひとりの男性が美貴に近づいてにこりと笑いかけてきた。

「美貴お嬢様、おかえりなさいませ」
 
「あ、水野! ただいま。なんだか久しぶりだね」

 見知った顔を見て美貴はホッとした顔で立ち上がる。

「ご無事でなによりです。さ、お車を外に停めてありますので行きましょう」

 水野はナイスミドルな五十二歳、美貴の小さい頃から世話役として付き添っている。かっちりと固めた前髪の整髪料の匂いが玉に瑕だが、美貴は水野をまるで父のように慕っていた。


 美貴の本来の父、深川政明は都内一等地に構える“グランドシャルム”の総支配人として毎日忙しい日々を過ごしていた。


 グランドシャルムは従業員を百人以上抱える都内でも有数な高級ホテルで、多くの芸能人や著名人も利用している。また、政治外交の際にも使われることもあり、世界からの信頼度も高いホテルとして有名だった。


 しかし去年、創立者の美貴の祖父が亡くなり、総支配人として政明は膨大な仕事に追われることになった。そして必然的に美貴と顔を合わせる機会も少なくなっていった。


 美貴は自分だけ呑気に旅行に行くのもどうかと思い悩んだが、政明は優しく見守りながら、美貴が楽しみにしていた卒業旅行に快く送り出してくれたのだ。