「初めまして。黎明館の仲居をしてます深川です」

 よく見ると、女将とよく似ている。おそらく親子だろう。そう思い、彼にも挨拶をする。

「育ちの良さそうなお嬢さんだよ、まったくあんたとは大違いだね」

「なんだよ、うるせーなぁ。なぁ、響也と誠一は元気か? 最近顔見せねぇけど」

「なんだい、あたしと同じ質問すんじゃないよ」

 この親子のやりとりを見ていると、なんだか漫才のように思えてきて思わずクスリと笑みがこぼれてしまう。

「響也とは悪ガキやってた頃の仲間でさ、喧嘩も甲乙つけがたい仲だったんだぜ? いてっ!」

「馬鹿だね! そんなのなんの自慢にもなりゃしないよ、とっとと配達行ってきな」

 呆れた息子の頭を叩き、女将は頼んでいた料理酒をテキパキと袋に詰める。

「すっかり話し込んじゃってごめんなさいね。これ重いわよ? 大丈夫?」

「はい、ありがとうございました。バスで来たので大丈夫です」

 料理酒の入った袋を受け取ると、思っていた以上にずしりと腕に重みがかかる。落とさないように慌てて抱えなおすと、女将にぺこりと頭を下げて店を出た。

(まだ時間あるな……ちょっとお茶でもしていこうかな)

 時間を確認すると、中休み終了まで十分時間が余っている。

 袋に入った一升瓶を携え、以前彩乃と行った喫茶店に向かうことにした。