(どうしよう、意識しすぎだってば……!)

 花城への気持ちに気づいて以来、以前のように自然に接することができなくなってしまっていた。声をかけられるたびにいちいち心臓が反応してしまうのだ。

「変なやつ」

 花城はふっと笑って軽く腕を伸ばし、手首を引き寄せると腕時計で時間を確認する。

「おっと、もうこんな時間か。悪いな、慌ただしくて」

 花城は黎明館の総支配人として毎日のように忙しくしている。自分の忙しさなど彼に比べればまだまだだ。少しでもこの旅館のために尽くしたいと思っているが、果たしてそれが彼に届いているかはわからない。

「お前、今夜時間あるか?」

 不意にそう問われて勢いよく顔をあげる。すると少し照れたような顔をした花城と目が合った。

「今度新しい酒を仕入れようと思ってるんだが……藤堂のやつがまずは責任者である総支配人が試飲しろってうるさくってさ、お前も一緒にどうかと思って。酒、飲めるだろ?」

「え、えぇ。お付き合い程度なら……」

 飲みに誘われた時によく使うありきたりの返事しかできないでいると、花城がニッと笑った。

「藤堂が試飲するなら自分も付き合うとか言ってたけど、男と飲んでも味気ないからな」

 そう言いながら花城が鼻先を指で軽く掻く。なんとなくその仕草が照れ隠しであるように思えて、思わず頬を緩ませた。