「昔は響ちゃんと三人でよくツーリングに行ったりしてたけどねぇ……翔が死んでから響ちゃん、一切バイクに乗らなくなっちゃって」

「どうしてですか……?」

「……翔が死んだ原因が自分だって思い込んでるから。翔がいなくなって同時に響ちゃんにも辛い枷を作ってしまった……今はそれが一番私の気がかりなの」

 かえでの瞳の奥にわずかに哀愁が揺れているような気がした。そして、しんみりしてしまった空気をかえでが明るい声で一変する。

「あのね、もし響ちゃんが自分を責めるような泣き言を言ったら、その時は一発ひっぱたいてやりなさい」

「え……?」

「弱気な男をシャキッとさせるには、それが一番効くから」

 美貴に頬を打たれて唖然としている花城を想像したのか、かえではクスクスと笑った。

「あの、またここに連れてきてもらっていいですか?」

「えぇ。もちろんよ、翔も喜ぶわ」

 その時、柔らかな風がそよいで墓標に飾られた白菊の花が小さく揺れた。まるで美貴の申し出に無言で応じるかのように――。