その唇に魔法をかけて、

「もう泣くなって、怒鳴ったりして悪かった」

 ポンポンと頭を軽く叩かれて撫でられると、次第に落ち着きを取り戻していった。これ以上、みっともない顔を見られたくなくて、ごしごしと濡れた目元を拭う。

「わかったら、お前に選択肢を二つやる。このまま車に乗って黎明館に帰るか、それとも俺の腕を振り切って東京に帰るか……二つに一つだ」

 抱きしめながら耳元で囁く花城の吐息が耳朶をくすぐる。ぞくぞくとしたものが全身を這い、まともな思考能力を奪っていく。

「どうする?」

 それがまるで花城の甘い誘導の罠のように思えてしまうが、脳内はすっかりそれに絡め取られてしまっていた。悩む余地はない。

(花城さんずるいよ)

「……車に乗せてください。私、黎明館に帰ります」

 力強くそう言うと、花城は何も言わずにぐっと抱きしめる腕に力を込めた。