その唇に魔法をかけて、

「お前はもう立派な大人なんだ、いつまでも甘ったれたことを言うな。世の中そんな戯言でなんでも許されると思うんじゃない」

 彼は本気で怒っている。今まで自分をこんなに真摯に叱ってくれた人はいなかった。厳しい言葉を浴びせられても、そのひとことひとことに温もりを感じる。

「……ご、ごめんなさ――」

 真っ白い頬に一筋の涙がつっと伝う。全身が硬直して拭うこともままならない。すると、顎のラインに沿って今にも落ちそうになっている雫を、花城がぶっきらぼうに親指で拭った。


「お前はまだまだこれからだ。そんなこの世の終わりみたいな顔すんなよ、何も知らないなら勉強すればいいだろ? 何もできないなら経験すればいい。初めからなんでもできるやつなんかいない、そうだろ?」

「……はい」

 すると、美貴は花城に腕を回されてやんわりと包み込まれた。ふわっと香る大人のフレグランスと、ほんのり鼻腔を掠める煙草の匂いが混ざって思わずうっとりとなってしまう。

 美貴はその心地よさに身を預けるようにして甘んじると、一気に張り詰めていた神経がほぐれてどっと涙が溢れて止まらなくなった。