その唇に魔法をかけて、

「……私、自信がなくなったんです。黎明館で私、もしかしたら仕事をしているつもりになってたのかもしれないって……花城さんみたいに特技があるわけじゃないし、本当はみんなの足を引っ張ってるだけなんじゃないかって……そう思ったら――」

「だから東京に逃げてきたってわけか」

 今まで聞いたこともないようなその冷たい声音に、思わず瞳が濡れ始める。

「お前、案外根性ないんだな」

 花城に追い詰められるように言われて、とうとう堪えきれずに胸を突き上げるように闇雲な気持ちを爆発させた。

「きっとみんな私がいない方がいいって思ってるに決まってるんです! だから、だから……黎明館に私の居場所なんかない!」

「馬鹿野郎!!」

「っ……」

 花城の激昂が雷のように地下駐車場に響き渡り、美貴は思わず後ずさると、ひやっと冷たいコンクリートの壁の感触が背中に広がった。ドンッという鈍い音を響かせて花城はその壁を拳で叩きつけると、抑えきれない感情を懸命に押し殺して唇を噛んだ。

「お前の居場所がない……? もういっぺん言ってみろ」

 今にも呑み込まれてしまいそうなその気迫に身じろぎもできず膝を震わせた。花城の怒声が今でも鼓膜を揺さぶっている。

「お前、なんでもかんでも自己完結するなよ。東京に帰る? あぁ、上等だ。誰も止めはしない、けどな……お前に任された仕事の穴を誰が埋めるんだ?」

「そ、れは……」

 自分のことを考えるので精一杯で、仕事の穴を作った後の黎明館を考えたこともなかった。花城に言われてはっとなる。