その唇に魔法をかけて、

「黎明館から東京までの距離を……時速〇〇〇キロで走行してきた場合……っと、約二時間三十分でカミューラに到着できますね。きっとETCでノンストップ――」

「……って、お前、余計な計算してんじゃねぇよ!」

 橘がキッと睨むとボーイは電源を切られたように口を閉じて固まった。

「花城さん、彼女から聞きましたよ。今、黎明館でいやいや働かされてるって……花城さん、彼女を一体どこの誰だかわかってるんでしょうね?」

 あくまでも勝気な橘に、花城はやれやれと小さくため息をついた。

「あぁ、ホテルグランドシャルムの総支配人、深川政明氏のご令嬢……だろ?」

「だったら! なんであんたんとこみたいな――」

「そのご令嬢を深川氏から直々に今、俺が預かってる。お前にとやかく言われる筋合いはないな」

 どんな挑発にも乗ることもなく淡々としている花城に、橘は不機嫌な皺を眉間に作った。