その唇に魔法をかけて、

「花城……!? なんでこんなところに――」

「うちの従業員が世話になったな」

「はっ……なんだよ、保護者面かよ?」

 橘は美貴から身を離すと、睨みつけながら花城と対峙する。橘も背の高い方だが、花城と並ぶと若干劣る。見下げることができない花城に対し橘はチッと舌打ちをした。

「亮治様、どうかされましたか?」

「別に、なんでもない」

 その険悪な雰囲気を察したボーイたちが間に入ろうとするが、それを橘が制する。

「驚いたな、確か黎明館って東京から離れたずっと山奥だって聞いたけど?」

 橘の挑発的な言葉にも花城は動じることなく鼻で哂った。

「あぁ、わざわざその山奥から車で来た。まぁ、そう遠い道のりでもなかったけどな」

 花城はニヤリとして人差し指でくるりと車の鍵を回してみせた。

「な、その鍵は……」

 花城の人差し指にかかっている鍵のエンブレムを見た瞬間、橘はギリっと歯を噛み締めた。それは富豪の象徴、成功者の証である某高級スーパーカーの鍵であることは一目瞭然だった。