その唇に魔法をかけて、

(な、なに……? 今の――)

 そう思っていると、橘がヒッと息を呑んで固まっていた。顔面の神経を強ばらせ、そしてそれが次第に焦燥に変わっていく。

「た、たち……ばなさん……?」

 橘の視線を恐る恐るたどり、その先を見てみると今度は自分も言葉を失った。壁に手をついた橘の人差し指と中指の間に、ダーツの矢が深々とつき刺さっていたのだ。

(う、嘘……)

 その信じられない光景に瞬きも忘れて目を丸くした。

「相変わらず女癖の悪いお坊ちゃんだな」

 橘の向こうに聞き覚えのある低い声がした。

(え……? まさか――)

 橘がさっと身を離すと、視界が開ける。そして美貴は自分の目の前にいる人物に目を疑った。

(花城さん!? どうして……)

 そこには腕を組みながら少し眉を顰めた花城が悠然と立っていた。そして忌々しそうに壁に突き刺さったダーツの矢を引っこ抜くと床に放り捨てた。いるはずもないその人物に橘は瞠目して固まっている。