その唇に魔法をかけて、

「美貴ちゃんって今、黎明館で働いてるんだって?」

「え……? どうして知ってるんですか?」

「東京じゃないところで働いってるって聞いてちょっと気になったからさ、有紗から教えてもらった」

 黎明館と口にする度に橘は唇をへの字の曲げて、面白くなさそうにしている。

「俺、あそこの総支配人と実は知り合いなんだ」

「え? 花城さんと? そうだったんですか……すみません、隠すつもりはなかったんですけど――」

「いいって、だって……どうせ、君は俺に隠し事なんかできないんだから」

 橘がじっと美貴の瞳の奥を見つめる。吸い込まれそうなその黒い瞳に、美貴は目眩を覚えた。

(な、なにこれ……きっとさっきのシャンパンのせい?)

「どうしたの? 大丈夫?」

 橘が白々しく尋ねてくる。ニヤリとした三日月の唇に嫌な予感がした。

「平気です」

 そう答えてから再び軽い目眩に襲われた。

「君が黎明館で仕事してるって聞いた時、ちょっと俺、妬いたよ」

「え……?」

「だって、花城さんって……俺が言うのもなんだけど、かっこいいだろ? 美貴ちゃんを取られるんじゃなかって気が気じゃない」

 橘はボーイに剥かせたマンゴーを口にしながら言った。