その唇に魔法をかけて、

「おい、早くあれ持って来い」

「はい」

 ホール内にいたボーイに橘が声をかけると、しばらくしてからフルーツの盛り合わせを手にして戻ってきた。

「た、橘さん、これは……」

 バスケットに盛られたフルーツはどれも高級品ばかりで、滅多に見ないような南国のフルーツが色鮮やかに光っていた。熟れた果実の香気がふわっと漂う。

「俺からのちょっとしたプレゼント」

「プレゼント……?」

「うん、ずっと君とふたりだけで話がしたいって思ってたんだ。なんだか物で釣ってるみたいで心苦しいけど……あぁ、もう気安く触ったりしないから安心して。さっきはごめんね、ほら、俺って海外暮らしも長かったからちょっとしたスキンシップのつもりだったんだけど」

 先ほど橘に触れられた部分がぞわりと疼いて、美貴は紛らわそうとゴシゴシとこすった。

「い、いえ……」

 横目でホールを見ると、遠くで有紗たちが歓談しているのが見えた。それに、向こうもちらちらとこちらの様子を窺っているのがわかった。その表情はどことなく心配そうな、こちらへ来たくても来られないような、そわそわしたもので、おそらく橘から人払いをするように言われたのだと悟った。

 その証拠に奇妙なほど自分の周りには誰も座っていないし、今まで気がつかなかったがなんとなく異様な空間のように思えた。