その唇に魔法をかけて、

 ――お前、砂山の作り方知ってるか?

 ――うん! 知ってる!

 ――ふぅん、じゃあトンネルの作り方は?

 ――え!? トンネル? どうやって作るの?

 ――じゃあ、教えてやる。

 あの日、花城と幼い美貴が楽しそうに浜辺で砂山を作っているのを見かけて、藤堂はまるで結界を張られているかのような雰囲気に立ち入ることはできなかった。

 許婚と言われても友人である花城より前に出られないし、自分の親友を裏切ってまで幸せになることなんてできなかった。

 美貴が東京へ戻り数年が経った。あれ以来、美貴に会うことはなかった。だから許嫁だなんて、ただの親同士の冗談だったのだ。と、そう思っていたが、突然、美貴が黎明館の仲居として現れた。幼かった彼女は女性らしく成長していて、思わずため息が出るほどだった。

 少年の頃、彼女へ抱いた気持ちは恋心というよりも、可愛い妹を大切にするようなそんな想いだった。それなのに、美貴に再会してからせり上がるように甦ってきた想いは、確かな恋心だった。

「何考えてんだ……」

 回想が途切れると、藤堂は真っ暗な海を眺めた。先ほどは生暖かく感じられた海風が、ほんのり肌寒い。時計を見ると花城が東京へ向かってから二時間は経っていた。

 そろそろ到着してもおかしくはない頃だ。藤堂はどんなふうに東京で二人は出会うのかと想像しながら乾いた唇を噛んだ――。