その唇に魔法をかけて、

 高校生になりたての頃、藤堂は不慮の事故で両親を失った。そして花城家で世話になり始めたと同時に、東京にある高級ホテルの令嬢が父親と一緒に一週間、黎明館へ宿泊に来た。

 ――ふかがわみきです。おせわになります。

 両親を失い、悲しみに暮れていた藤堂の目の前に、にこりと自分に笑いかける小さな女の子が現れた。まだ小学校にあがる手前くらいだったが、人見知りもせずに遊んでくれとせがまれ、初めは戸惑ったものの明るく人懐っこいその少女の性格に不思議と両親を失った喪失感が癒されていった。

 ――誠一、お前と美貴ちゃんは許婚みたいなものだからな、彼女に似つかわしい立派な男になるんだぞ。

 あまり難しいことはわからなかったが、許婚の意味くらいはわかった。先代に言われて初めは冗談だと思っていたが、どうやら自分は彼女の許嫁……らしかった。まだ彼女は何も聞かされていないようだが。

 藤堂は両親を失ってから、花城龍也の厚情で花城家に引き取られた。同じく快く自分を迎え入れてくれた花城響也にも感謝している。

 しかし、心の奥にシミとなってしまった両親の事故死という暗い過去は、拭っても拭っても拭いきれなかった。時々、どうして自分だけ生き残ってしまったのだろう。

 本当は自分の代わりに両親が死んだのではないか。などと悲観的な事を考えてしまうのだ。花城は自分とは対照的で芯が強く、常に前向きな姿勢で自身を律している。そんな彼を羨ましいとさえ思ったこともある。