その唇に魔法をかけて、

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 美貴の失踪を受けて重苦しい雰囲気の中、黎明館の総支配人室には花城と藤堂、かえでがだんまりと口を閉ざし表情を曇らせていた。そんな中、とある一本の電話により事態が急変した。

「なんだって!?」

『えぇ、おかげさまでこの度、高林の専属秘書に任命されまして、社長同好会に今夜招かれたのですが……ってこんな内輪の話よりもですね――』

 先日、マルタニ商事の社員旅行の際に漆畑の悪行が明るみに出て、その後、漆畑は役職を解かれ平社員へ降格した。というわざわざどうでもいい情報を報告するための電話ではないことは花城もわかっていた。花城が驚いたのは、思わぬところで美貴を見たという牧田からの情報だった。

「それで、そいつが深川だっていうのか?」

『えぇ、私の記憶している限りそうだと思います。彼女を見かけた時に声を掛けようと思ったのですが、見失ってしまって……なんせ、今夜は異例なほどの混みようですから。けれど、あの方は、かの有名なホテルのご令嬢様では? なぜ、そのような方がそちらで仲居を?』

「……こちらにも事情ってものがある。と言いたいところだが……実は今朝から姿が見えなくてこちらも探していたところだったんだ。まさか本当に東京に入っていたとはな」

 花城がちらりとかえでを一瞥した。