その唇に魔法をかけて、

(……どうしよう、なんか……ちょっと酔ってきたかも)

 空腹にアルコールをどんどん流し込んだためか、日頃の疲れがそうさせたのか、いつもより酒が回るのが早く感じられた。

「顔、赤いよ? もしかして酔っ払っちゃってる?」

「っ!?」

 すると、無遠慮に橘の手が美貴の腿に置かれ、やんわりと揉まれた。

「あ、あの! 私、ちょっとお手洗いに行ってきます!」

 先日の漆畑を彷彿とさせるようなぞわっとしたものが走り、勢いよく立ち上がると無言で出入り口まで向かった。

「あ! 美貴! 待ってよ」

 後ろから有紗が自分を呼び止める声がする。けれど、美貴は振り向くこともなくずんずんと大股歩きで生演奏用のグランドピアノの横を通り過ぎようとした。