その唇に魔法をかけて、

 ――これから東京に行くんです。

 ――えっ……!? 東京?

 ――ちょっと頭冷やしに行ってきます。万が一、月曜になっても戻らなかったら……その時はすみません。

 ――ちょ、美貴ちゃん!? ちょっと!?

 自分勝手なことを言い残し一方的にかえでとの電話を切ったあと、黎明館と断絶するように電源を切ってしまった。

 自分は黎明館から辛い環境に耐えかねて逃げてきた。嫌がらせに立ち向かうこともせずに――。そう思うと、自分の未熟さが思い知らされ胸が痛んだ。

「うわっ」

 すると、電源が入るのを待ってましたと言わんばかりに有紗から電話がかかってきた。急かすような着信音に思わず声を出して驚くと、慌てて通話へスクロールした。

「もしもし?」

『美貴? あぁもう、やっとつながった。東京着いたの?』

 ずっとつながらなかった苛立ちがその口調から伺える。有紗は少し短気な性格だ。

「う、うん。今さっきついたよ、これからそっちに行くから」

『はいは~い! 待ってる! こっちはもう盛り上がってるよ』

 電話の向こうからがやがやとした賑やかな雰囲気が窺える。美貴は電話を切ると、そのままタクシーを拾った。

「クラブカミューラまでお願いします」