トイレで手を洗っていると、水谷さんが入ってきた。


「お疲れ」と、鏡越しで言う。


さっきから、ぼんやりと私を見ている。


「お疲れ様です」


「どうしたの?」


「いえ。手、綺麗だなと思って」


「手?」


「ああ。ごめんなさい。なんでもないです」


と、言ったのに、急に意を決したみたいに表情を引き締めた。


「ていうのが、嘘で、お願いがあるんですけど」


「お願い?」


「あの……モデルになってくれませんか?」


「モデル?」


聞くところによれば、ネイル検定が今週末に行われるらしい。


それには、ハンドモデルが同行しないといけないみたいで。


総務の金子さんに頼んでいたものの、爪が折れて、ハンドモデルを降りなければいけなくなったそうだ。


だから、代わりの人を探していて、と笑いながらも、ひどく困っているように見えた。