「どうよって言われても。ていうか、30の女がふつう化粧品とか持ち歩いてるもんじゃないの?」

「私は持ち歩かないの」

「なんで?」

「荷物になるから。口紅くらいは持ってるけど」

美弥の顔をしげしげと見た優は、「そもそも化粧が薄いから落ちても違和感ないもんな」
と、笑った。


とりあえず2人で駅に向かって歩く。

「ねえ、昨晩も聞いたかもしれないけど覚えていないから、また聞く。沖田優はどこで何の仕事をしているの?」

「ああ、昨晩話したかもしれないけど、覚えていないようだから答える。グールル社でファイナンス」
「数字好きそうだもんね。ということはオフィスは六本木か―――」
「そう。ところでなんで俺のことフルネームで呼ぶんだよ」
「だって呼び捨てもなんだし、かといって名字や名前に君付けも気持ち悪いし、呼び捨てするほどの付き合いじゃないし。フルネーム呼び捨てが一番しっくりくる距離感だから」

「セックスしてるのに、呼び捨てにするほどの付き合いじゃないって言いえて妙だな。人の距離感とセックスは比例しないってことか」

いちいち分析してみせるのは、仕事柄か性格か。