体から堕ちる恋――それは、愛か否か、

まだ新しい思い出は、確かな熱をおびて波と一緒に打ち寄せてくる。
美弥は海から目を離して生美に顔を向けた。

「で、どこに連れて行ってくれるの?」
「着くまで内緒」

生美はカーステレオから流れる洋楽に合わせてハモリながら、少しアクセルを踏みこんだ。

海際の有料道路を下りて20分ほど車を走らせ、緑が多くなってきたところに大きな門が現れた。
生美は慣れた様子でハンドルを切り、その中に入って行く。まるでヨーロッパの豪邸に続く遊歩道のように、木々に囲まれた細い道を進むと、正面に瀟洒な洋館が見えた。
その手前の駐車スペースに車を止める。
「着いたよ」と言って生美はすぐに車を降り、助手席のドアを開けてくれた。
本当に、よく写真で見るヨーロッパの洋館のようだった。いったいここはなんなのだろうと、目の前の白い建物を見るが、入り口には『bota』と書かれた看板があるだけで察しがつかない。

扉を押して、生美が「こんにちは」と声をかける。すぐに中から男性が現れた。
日に焼けたたくましい体はサーフィンでもやっていそうで、Tシャツにバミューダ姿は、まだここは夏なのかと勘違いしそうな雰囲気だった。
年齢は美弥よりも上だろう。しかし彼にはいつまでも夏とTシャツが似合いそうな少年ぽい雰囲気が漂っていた。