11月も終わりに近づいているが、まだ厳しい寒さは訪れていない。
夏がずるずると居座ったおかげで、まだ晩秋といった雰囲気が残っている。

約束の時間ちょうどにスマホの着信音が鳴った。

「着いたよ」

「すぐ行く」という返事をしながら美弥はバッグを持って玄関を出た。
マンションの前に止まっているのは、空色に染められたかのような青いミニクーパー。
小ぶりで美しいそのボディに、ネイビーの細身のパンツに白いシャツ、そしてその上にはやはり鮮やかなブルーのカーディガンを着た生美が寄りかかっていた。
あごの上まで伸びたストレートの髪は、襟足の部分で後ろに結んでいる。

美弥が車の前に立つと、「どうぞ」と、形の良い指でドアを開けてくれた。
まっすぐでしなやかそうな指。花を扱うのがよく似合っている。
そして形は似ているが、優の指の方がもう少し骨っぽいと、ついつまらないことを考えた。

「有難う」

美弥が助手席に体を入れるとドアをしめ、生美は運転席に乗り込んで、「じゃあ出発するよ」と無邪気な笑顔を向けた。
行先は知らない。
ただ「僕が大好きな場所に連れて行きたい」と言われただけだ。