「優さんも交えて会ってお話をさせていただきたいのですが」

相手の沈んだ声に、これは挨拶じゃなくて、やっぱり文句の方かしらと訝りながら、里美は尋ねた。

「どんなお話でしょうか?」
「実は昨日、娘が突然優さんから別れて欲しいと言われたそうで」
「はあ……」
「優さんには他に好きな方ができたそうで」
「そうですか……。でも息子はもう大人ですし、おつきあいに関しては本人同士で解決した方がいいかと思うのですが」

なるべく穏やかに言ったつもりだが、それまでおっとりとした口調だった敦子の口調が急に険しくなった。

「娘は優さんと結婚するって喜んでいたのに、それが二股かけられたあげくに捨てられて、とても傷ついてるんですよ。沖田株式会社の息子さんがそんなことをしたと知れ渡ったら生徒さんもたくさんいるし、困るんじゃないですか? それに弟の生美さんだって有名人ですしね」

その豹変ぶりに呆気にとられ、「あの、脅してます?」と聞くと、またおっとり、いや、ねちっこい口調で答えた。

「あら、やだ。脅しだなんて。私ね、綾香から昨晩話を聞いていて、可哀そうでいてもたってもいられなくて、実は今東京に出てきてるんですよ。今日は日曜日で優さんもお休みでしょう? できればこれからそちらに、本校の方にお伺いしようかと思っているんですけど」
「これから、ですか?」
「ええ。優さんには娘から連絡しています。ダメとは言わないはずだって言ってましたよ」