~悪鬼side~



「……今日はサイン会かー。緊張する(笑)」

ヘアメイクさんにセットされながら、何回も紙に、サインの練習をする。

人前に出るのは緊張するな(笑)

売れる前は、けっこう平気だったのに、最近は妙に緊張して、心臓がバクバクいってるw

来てくれた人に喜んでほしい。

そんな思いで毎日頑張っていた。

スタッフさんに案内され、椅子に座り、僕は、深呼吸しながら、ファンを待っていた。

スタッフ「悪鬼さん、始まりまーす!」

「はーーい!」

スタッフ「どーぞ!」


スタッフさんの合図の後、ファンが入ってくる。

「今日は来てくれてありがとーー♡」

そういうと、女の子は顔を真っ赤にしながらも、必死に喋ってくれた。

そんな姿に微笑ましく思う。

今回サインする物は私物ということで、僕の人形や、色紙、ライブTシャツにサインをしていった。

サインが終わった後、泣きながら出ていく女の子達を見て、僕も有名になれたんだと実感する。

スタッフ「悪鬼さん、次の人で最後です」

「おっけー!」

スタッフ「では、どーぞ!」

スタッフさんの合図で最後の女の子が来た。

「今日は来てくれてありがとーー♡」

彼女の顔を見ると、一瞬何かが、引っかかった気がしたけど、誰だか思い出せなかったから、言えなかった。

楓「お会いできて、嬉しいです……///」

彼女は顔を真っ赤にしながら、必死に僕を見てくれてる。


「僕も嬉しいよー!ツインテール可愛いね♡」

僕が喋る度に顔を真っ赤にしていく少女。

楓「あのっ、サインお願いします!」

そう手渡されたのは、一枚のCDだった。

「はーい!!おっ、CDなんだ!おけおけ!」

彼女のCDを受け取り、何のCDかなー?と思って、表紙を見るとそこには、





“失恋”




っと書かれていた。




僕はびっくりして、彼女の顔を見るけれど彼女は下を向いていて、確認することができない。



でも………。



このCDは、音楽会社の人に聞いてもらうために、持ち歩いていたものだった。

あげたのは、僕をスカウトしてくれた事務所の人と、




失恋したと言っていた、





君だけだったから。




それに、ふと彼女の服を見ると、見覚えがあった。

2年前の少女も、たしか白のワンピースを着ていた。


「はい!どーぞ!」



動揺しながらも僕は、書き終えたCDを渡す。

下を向いていた彼女は、CDにサインが書いてあると、確認すると、

楓「ありがとうございます!(微笑む)」


とびっきりの笑顔で微笑んでくれた。





ドキッ





その瞬間、僕は悟った。





きっと、彼女は、






2年前の子だ。





ずっと、売れてからも気になっていた。




彼女は泣いていないか?



一人で苦しんでいないか?



あの日から、公園に行かなくなった僕は、一度も彼女に会うことはなくて……。



ヘタレな僕は、名前も、アドレスも知らない。


手がかりは、僕が渡したCDだけだった。


それさえも捨てられてると思った。



でも、そのCDは今僕の目の前にあって




会いたかった彼女は、すぐ側にいる。




「っ…///。君っ、やっぱりあの時のっ…」




僕が伝えよとしたとき、スタッフさんが僕の言葉を遮った。

スタッフ「時間になりましたー!おしまいでーす!」

スタッフさんに案内され、出口へと消えていく彼女。


やっと会えた。


ちゃんと、笑顔だった。


そう思うと本当に嬉しかった。



「次こそは、名前とアドレス、聞かなきゃ(笑)」


また聞けなかった自分に反省しながら
小さく拳を握りしめ決意した。





この思いが、今の俺には、どんなものか分からないけれど、一つだけ確信したことがあった。

それは………。




『僕は彼女の笑顔を守りたい。』







そのために、精一杯、僕は歌を歌おう。



獅「あっきー、行くぞ~ー!」



「今行くーー!」



僕はメンバーの元へ走っていった。