「楓ー、帰ろー!!」

今日も愛おしい人が私の名前を呼ぶ。

「はーーい!」

彼の隣で歩く日々。

毎日が幸せだった。



ある日のこと。

居残りがあった私は、彼氏の圭助(けいすけ)と帰らずに、一人で帰っていた。

「一人で帰るの、久しぶりだなー……」

このまま帰るのも、寂しかった私は、
以前、圭助が特別な場所だよ!って言ってくれた場所に来た。

そこは、景色がよくて、町全体を見渡せる。そんな場所だ。

「あーー、やっぱり、素敵だー!!
………でも、どうせなら、圭助とまた来たかったな。」

……帰ろう。そう思ったとき、


私は目を疑った。




「圭助……………?」



そこには、圭助と知らない彼女が、




キスをしていた。





そう、私は二股されてたのだ。

好きって言葉も、愛おしいその目も

優しい言葉も、全部私だけのものだと

思ってた。


でもそれは、私のただの勘違い。


私だけが、彼を好きで、彼の気持ちは

私じゃなくて、

さっきの彼女のものだった。


それを知ってから、私は男性を信じられなくなった。

精神的なショクが大きくて、学校も行けなくなった。

だから、今日も学校に行かず、ブラブラ歩いているときだった。

「…………♪」



公園で誰かが、ギターを引きながら、歌ってる。

私はその歌声に惹かれながら、公園に入った。

そこにいたのは、髪が茶色の可愛い顔立ちをした男の人で、

私が彼の前にたつと、とびっきりの笑顔で、こう言った。



「聞いてください。失恋。」



「僕の何が悪かったのかな?

君の笑顔は全部偽物だったの?

僕はこんなにも君だけを、愛してたのに…


毎日君の小さな手を握って、

ゆっくりと君のペースで歩く。

こんな日々が続くと思ったのに、

君はいつのまにか、消えちゃったんだ。


僕だけじゃ、足りなかったかな?

弱虫で君を悲しませたから?

それでも、僕はいつも君を真っ直ぐ見つめてたよ………。



笑うその笑顔も、愛してるのその言葉も

全部僕だけのものじゃなかった。

弱虫の僕はその場を逃げ出した。

恋愛って、こんなに辛かったんだ。

流れる涙、しょっぱくて………。」

…………。


なんか、顔が冷たいなと思ったら、


私は、彼の歌を聴きながら泣いていた。


きっと彼も私と同じなんだろう。

真っ直ぐに愛していたのに、

それは自分だけだったから。

彼は私の涙に気づき、少し悲しそうに、歌を続ける。


「あれから何もしたくなくて

人を避けて生きてきた。

君をいっそ憎んでしまったら、僕の心は

晴れるのかな?

なのに、なぜか僕の心は、君が好きだと叫んでる。


君の温もりが、まだ忘れられなくて。

君の声が頭の中を駆け巡って、

僕はいつになったら、君を忘れられるんだろうか………?


憎いのに嫌いなのに、まだ君が好きだよ

あの時逃げなかったら、何か変わったかな

僕はなぜ、こんなにも女々しいんだろう

恋愛ってこんなにも、悩んだっけ?

眩しい笑顔忘れられなくて。」


「ありがとうございました。」


私は涙をこらえながら、必死に拍手をした

彼の歌詞が、声が

今の私には心に響く。

彼を憎んでしまえば、嫌いになってしまえば、楽なのかもしれない。

だけど、それができないから辛い。

こんなに、酷いことされたのに、何故か君が好きだから………。

「大丈夫?何かあったなら聞くよ?」

そんな優しい一言に、

崩れ落ちた私は

今までのことを全て話した。

元カレがいたこと。

その人を、すっごく愛していたこと。

裏切られたこと。

この恋を忘れられないこと。

彼は、優しい目で私の話をずっと聞いてくれた。

時には、泣く私の背中をさすってくれた。

全部話終えた後、

「……そっか。君も僕と同じなんだね。」

その後、彼も過去の話をしてくれた。

彼も私と同じように、二股をされていたらしい。

愛していたのに、それは僕だけだった。

そう、悲しそうに話始める。

彼はそんな想いを全て歌に込めているらしい。

「もし、僕が有名になったら、彼女に言ってやるんだ(笑)

僕の方が君を幸せにできたのに……。

ずっと君だけを愛してたよ………。」


私も、そんな風に言える日が来るのだろうか。

でも、この人のように、前に進みたい。

「大丈夫、君は強くなれるよ。

辛いなら僕を思い出して。

泣きたいなら僕の歌を聞いて。

君は……一人じゃない。」

彼は優しく微笑みながら、

私より少し大きな手で、私の手を

包み込んでくれた。


彼の手は温かくて、

久しぶりに、人の温もりを感じた。

「これ、よかったら。

僕のさっきの曲のCD。貰ってくれる?」

「もちろんです!」

私は、彼のCDを受け取り、心から笑った。

最近の私は俯いてるか、泣いてばっかりだったから、笑うのは久しぶりだった。

彼は、少し微笑みながら、背中を押してくれた。

「頑張って!君も前に進めるよ!」

彼に礼をした後、私は急いで家に帰った。


次の日から、私は学校に行った。

思った以上に友達は私のことを心配してくれていた。

『無理しなくていいんだよ?』

『私たちがいるよ!』


大丈夫………。


私は………一人じゃない………。


私は………ちゃんと、




……前に進めましたよ?






あれから、毎日公園に行ったけど

あれっきり、君に会うことはなくて、

彼の名前もアドレスも知らない。

あるのは、あの時貰ったCDだけ。

それでも、貴方に会いたくて、

ちゃんと、お礼が言いたくて。

そう思いながら過ごしてきた。


そして、出会えた。


それは、画面の中で。


「どうもー!こんにちは、八神悪鬼です!」


ちゃんと、有名になれたんだね……。


彼女さんにも、きっと届いてるよ。




おめでとう……。あっきー。



きっと、私のことは覚えていないだろう。

でも、私にとって君は、命の恩人なの。

君がいたから、前に進めた。

だから、どうか、

また、君と話せますように……。