秋晴れの日曜日。

並木道の地面は色とりどりの枯れ葉で埋め尽くされている。


冷たい風が体を冷やす。


「ここはね、春になると桜がすっごくきれいなんだよ。」


ちぃちゃんはそう言うと寒そうに手に息を吹きかけて温める。


「そうなんだ。」

この並木道に満開の桜が咲きほこるのを想像してみる。

「綺麗なんだろうな。」


私が呟くように言うと、ちぃちゃんはにこっと笑って

「うん。すっごくきれいなの。それでね、毎年みんなで花見をするの。友達の家族や親戚、それと近所の人まで誘って。」



「にぎやかそうだね。」

「ほんとうるさいぐらいにぎやかだよ。ご馳走もいっぱい食べられるし。」


ぐぅーー。

ちぃちゃんのお腹が鳴って、

ちぃちゃんの顔が真っ赤になる。


クスッ


「笑ったなー。ぴーちゃんの意地悪。」


「え?あ、ごめん。そんな悪い意味で笑ったんじゃなくて、、、。」

「うそうそ、こーゆうときは笑って馬鹿にしてもいーの。私だったらね?。本気で気を使われたら逆に恥ずかしすぎるよ。」



かわいーな。ちぃちゃんは。

綺麗も可愛いも両方兼ね備えてる感じ。


憧れるな。


「分かった。これからは思う存分笑います。」


「ふむ。それでよし。」


二人で笑う。

楽しいな。



「そういえば花見の話すごく楽しそうだね。」


「楽しそうじゃなくて、ほんとに楽しいの。来年の春はぴーちゃんも一緒にやろうね。」


そっか。


これからは、私も皆と一緒に遊んだりあのときはこーだったねとか言い合える日が来るってことなんだよね。

「楽しみ。楽しみなことがたくさんありすぎて、一生分の幸せを今一気に皆からプレゼントされてるみたい。」



「ぴーちゃんはいつも大袈裟なんだから。」


うんう。大袈裟なんかじゃないよ。


私今までで一番楽しいもん。

皆と話したこととか家で思い出すだけで幸せになれるんだもん。

ずっと憧れてたの。

漫画みたいに大好きな友達がいて友達も私のことを好きでいてくれて


毎日学校で「おはよう。」って挨拶してたくさんおしゃべりして笑って「ばいばい。また明日ね。」

って学校生活を送ることが。

今、憧れが現実になってるの。

夢かなって思うほど。




「ぴーちゃんぴーちゃん!ほらあそこがヒロの家だよ。見える?」


古風な感じのおっきい塀で囲まれた家が見えた。


「見えたよ!いいお家だね。和風ですごく落ちつきそう。」


ちぃちゃんはビックリした顔で私の事を見つめる。

「え?うち今なんか変なこと言ったかな?」


「いや、へんなことって言うか、、、。ま、なんでもない。気にしないで。」


「えー。すごい気になるよ。ちぃ様。どうか教えてくださいませ。」



「しょうがない。教えてしんぜよう。」

ふざけながらちぃちゃんが話し出した。


「なんかねヒロの家を紹介すると皆すっごく驚くのね。私もここのお屋敷を初めて
見たときは相当驚いたもん。でもなんかあんまりぴーちゃん驚いてないから、、。
まさかぴーちゃんってすっごくお金持ちでこのぐらいの家とか当たり前だったり
して。とか思ったの。」



「、、、、、、、、、。」

「あーーー。ってなんかあんまり昔の事自分から聞かないでおこうって思っていたのに。
ごめん。全然答えなくて、スルーしちゃって大丈ぶだから。」


ちぃちゃんはそう言って頭を抱える。

「そんなに気を使わないで。って気を使わしてるのはうちだよね。ごめん。
んーっとね、実はうちのお父さんある会社の社長さんなんだよね。だから一般的な家庭よりは家が大きいほうなのかもしれない。ヒロくんの家みたいにそんなに立派じゃないけどね。」


「ありがとう。うれしい。」

そう言ってちぃちゃんは優しく微笑んだ。

「うれしい?」


私はなんでこんなつまらない話で喜んでくれているのか理解ができなかった。

「そう。とってもうれしいよ。だって初めてぴーちゃんが自分の家族の事を話して
くれたから。」


ほんとだ。自然に話せた今まで避けてきた話の一部を。


だんだん過去の記憶を過去の事として処理出来つつあるのかもしれない。

「ちぃちゃんだからだよ。」


「だー。もうぴーちゃんのおばか。どんだけ私をぴーちゃんの虜にさせたら
気がすむん?」


そう言ってうちに抱きついた。


「おーい。ひよ吉ぼーっとしとるとちぃに襲われるよー。」

ヒロくんの家の門から須田くんが手を振ってる。

私服だ。すごくシンプルでそれがまた須田くんのきれいな顔立ちに

すごく似合ってる。

やっぱかっこいいな。なんかちぃちゃんと須田くんってモデルさんみたいだな。


「2人とも来るの遅すぎ。待ちくたびれちゃったよ。ほら上がって上がって。」

「あれ?ここってゆずの家だったっけ?」

「は?なに言ってんだよ。んなわけないでしょ?知ってるくせに。」

「いや、そうゆう事を言ってるんじゃなくて、、、。」

ちぃちゃんがぼそりと苦笑いしながら呟くと

まったく意味がわっかてない須田くんは

「ん?なんか言った?」

「いや、もうなんでもいいや。」

とあきらめたように言った。


ほんとに2人の会話は面白い。

聞いているだけでも笑えてくる。







いつまで皆と笑って過ごせるのかな。

楽しい時間はあっというまに過ぎてゆく。

どうかこの幸せな時間ができるだけ、出来るだけでいいから長く続いて欲しい。



私の過去を全部話しても皆今と変わらず私の事を好きでいてくれるのかな?

期待と不安。


でもやっぱりあの時の自分は一生自分の中に閉じ込めておきたい。