どこかのだれかの物語








~田中 千春~


高校生になってはじめての夏休みが終わろうとしていた。



「あー、明日から学校なのかー。」


今日は明日から学校なので小学生の頃から行われてきた、宿題追い込み会(ならぬ、人の宿題を移す会)をゆづの家でやっていた。

「お前はいーよなー。部活なんもやってねーもんな。」


「なぁ、俺らなんて夏休みだったことすら忘れてたわ。ほぼ毎日走ってた記憶しかねぇーわ。花の高校生活初の夏休みだったって言うのに、、、、。」

「しかも、一番暇だったやつが一番宿題ができてないとはどー言うことだ?あ?」


真っ黒に日焼けしたひろがブーブー言う。

それにしてもゆづは焼けないよなー。

なんてぼんやり思いながら、ヒロのいってることは受け流す。

「あ、そういえばさ、なつは?なつはどうしたの?」


なつはゆづの弟で中学3年生だ。

二人は本当にそっくりな顔をしている。

ほんとは私たちと同い年なんだけど、色々あって留年してしまったんだ。

でも、ほんとは頭がすごく良くて多分ここにいる誰よりも頭はいいと思う。


「あー、あいつ?なんか当分友達の家で勉強合宿するんだって。」


「友達って?」

「お前ほんとになつのこと大好きだなぁ。そんな前のめりになっちゃって。」


「ばっ、違うわ、ただ私は幼なじみとしてなつが心配なだけで。好きとかそんなの、、、、。」



ゆづはあきれた顔して

「はいはい、幼なじみとしてね。俺のことはちっとも心配してくれないくせに。ちぇっ。みんななつなつっていったいなんなんだい。」



「すねてますよー。ちぃさん。あなたの大事な大事な幼なじみが。」



「ゆづはバカだからなにがあっても気づきさえしないでしょ?それに比べなつは繊細なんだから。」


「まぁ。いいや。なつはヒロの弟の所に行ってる。あそこめっちゃ設備いいから。多分夏休み終わっても当分帰ってこねーな。その代わりになぜかヒロがこの狭い俺んちにきてんだよ。」


なるほど。だからここに来たときヒロはとっくにくつろいでいたわけね。

「ゆづ、寂しがり屋だから。一緒にいてあげてってなつが。」

ぷっ。弟に心配されてやんの。

「ちぃ、今笑ったな。俺は寂しがりやじゃないし。ほんとに余計な心配しやがって。ばかはるめ。」


とかなんとかいいながら嬉しそうにしている。

ほんとにこの兄弟は仲が良すぎる。


多分いろんな事をふたりで乗り越えてきたからなんだろうな。

「てかさクラスLINEで藪Tから連絡来てたんだけど、明日から転校生が来るって見た?」



「え?まじ!見てない。こんな時期に?」

私が目を見開いて驚いていると

「そうらしい。」

「どんな子だろう?可愛い子だといいな。」


「いや、まだ女の子かはわかんねーよ!」


ばかだな。ヒロは。ほんとに女の子好きなんだから。そしてなぜか私のことは女の子だと思っていないらしい。





「明日が楽しみだね。」













~須田 夕弦~


今日は転校生が来るみたいだ。

俺は級長だから転校生を会議室から教室に案内しろと藪Tから頼まれていた。






会議室に近づくと声が聞こえてきた。


「、、、、てきました鈴村日陽です。好きな食べものはとうもろこしで星座は獅子座です。趣味は映画を観ることです。みんなのおすすめの映画があったら是非教えてください。みんなと仲良くなりたいです。どうぞよろしくお願いします。」



あれ、一人なのかな?

ドア、のガラスから覗いてみても一人しかいないみたいだ。


女の子は自分の自己紹介を言い終わると満足そうにこくこくうなずいて。

ガッツポーズを決めた。


ぷっ、ヤバイ。なにこの面白い転校生。

どうしよう笑いが。


よし、落ち着け俺。落ち着け。



ガラッ


入ってきた俺を豆鉄砲でもくらったかのような顔をして見つめている。

やばい。

どうしよう。笑っちゃいそう。

平常心。平常心。

そうだ、ちょっとだけからかってみよっかな。

ジーっとガッツポーズしている腕を見つめてみる。

それに気づいた、転校生は顔をゆでダコにしてすぐに元通りにして恥ずかしそうに下を向く。



やばい。なんかこの子面白い。


教室に歩いているときも窓に映った転校生を観察してると、顔が青くなったり、真っ赤になったり不思議そうになったり、

表情がコロコロ変わる面白い子だなとつくづく思う。見てるとなんだか自然と笑顔になる。


教室についてドアの前に少し震えながら入れずにいるところを見るとなんだかほっとけなくて、

ちょっとでも緊張をほぐそうとからかってみるとやっぱり彼女は顔を真っ赤にして動揺したかと思えば、なんだか泣きそうな顔になる。


この子のことがもっと知りたいと思った。









俺以外のちぃとヒロも俺が気に入ったようにすぐひよ吉のことを気に入った。


毎日、お弁当も中庭で食べるようになったし。毎日一緒にも帰っている。



俺たちはひよ吉のこと心から信頼しきってるのだけれど、なんだかひよ吉は俺らにいつも遠慮しててというかなにかを怖がっているような気がする。そして、ときどきほんとにときどきなのだけれどすごく泣きそうな顔をする。壁を感じてしまう。


今まで、どんな生活をどんな人と送ってきたのだろう?

どうして、、、こんな時期に転校してきたのだろう?

こんなことを思ってるのは俺だけなのかな、、、、、。




あーーー、やっぱり俺はもんもんと考えるのが苦手だ。ぶつかっていくしかねえ。











「ねぇ、ひよ吉。ひよ吉ってなんで引っ越してきたの?」


さっきまで笑顔だったひよ吉の顔が笑った顔なんだけど笑っていないような顔になる。

そう、ひよ吉はよく昔の話を聞くたびにこの顔をするんだ。

この顔を見るたびに俺はなんか苦しくなる。



「んーとね、ここは自然がいっぱいだから、こんなところに住みたいな~ってずつと思ってたから。」



ひよ吉は多分俺が聞きたかったことはそんなんじゃないってわかって答えているんだと思った。

ひよ吉の物語には入れないんだって思わされる。


もう、聞いちゃダメなんだって思う。

俺はひよ吉の無理に作っている顔なんて見たくない。

自然とコロコロ変わるひよ吉の表情が大好きなんだ。



ねぇ、ひよ吉。


君は何を抱えているの?

たまに俺を見て悲しそうな顔をするのはなんで?






わからない。わからない。









帰り道、ひよ吉はどこかによらなければいけないと言って俺たちは別れた。



そして、ちぃとヒロと俺の3人になった。



3人そろうといつもうるさいぐらい会話がなくなることは無いのに今日はなんだかシーンとしていた。


やっぱり、こいつらも俺と同じことを考えてるかもしれない。


沈黙を破ったのはちぃだった。


「ねぇ、さっきさゆづがぴーちゃんになんでこっちに引っ越してきたかってきいてたじゃん、それ私もすごく気になってたんよね。それと、こんなこと思ってるのは私だけかもしれないけどぴーちゃんに壁を作られてるような気がする。なんかどーしたら心を開いてくれるのかわからない。」



すごくつらそうにちぃが話す。

「俺もそれ実は思ってた。俺的にはぴーちゃん昔つらいことがあったんやないかなと思ってる。だから辛そうな顔を見たくなくて過去の話を俺は自然と避けてたけど、実際ゆづが聞いてくれたとき俺もそれが知りたいんやってむっちゃ思った。」

ヒロがこんなに悩むなんてほんとに珍しい。


「俺らほんまにひよ吉のこと大好きなんやな。ひよ吉はそれをわかっとんのかな?」


ん?わかってるのかじゃないよな。

「伝えなきゃいかん思う。ぴーちゃんに。私らの気持ち。言わなきゃわかんないのはみんな一緒やもんね。私たちがわかんないようにぴーちゃんは出会ったばかりの人ばかりだからもっと不安だよね。」


「俺も思った。ぴーちゃんからなにかを聞き出そうとするんやなくてまず俺らの気持ちぶつけてみよう。」


二人とも俺の思ったこと全部言いやがって。


みんな同じ気持ちなんやと思ったら笑顔になれた。


「ほなさ、もしまた同じような壁を感じたときにみんなで気持ちを伝えよ?ちゃんと、ひよ吉に伝わるように。」















これからの



君の物語の中に


まだ、


俺らをいれてくれなくてもいい。




ゆっくり、


いつか入れさせてくれれば。







でも、これだけは分かって。


俺らの物語の中には 



とっくに



君がいるってことを、、、。