「東京の桜橋高校から来た鈴村日陽(すずむらひよ)と言います。みんなと仲良くなりたいです。どうぞよろしくお願いします。」


「、、、、、、、。」


「ぐはぁぁー。やっぱ無理だよ。緊張しすぎて心臓が破裂するよー。」


転校初日、会議室に1人残され回りの教室から蝉の鳴き声にも負けないような生徒たちの騒がしい声が聞こえる。

よし、先生が来るまであと十分もあるからもう一回練習しとこ。


高校一年の5月、私は東京から青森のおばあちゃんの家へ引っ越してきた。

そして4ヶ月後にやっとここ青森の高校に転校というかたちで通うことになった。


なんで、こんな時期にって?まぁ、それは後々ね、、、。

だってその前にとりあえず新しい学校でこんな時期に転校してきた私を受け入れてもらうために挨拶の練習をしなきゃね。

第一印象って大事だからね。


どうしよう。さっきのじゃちょっと物足りないかな?

じゃあ、もうちょっと付け加えよう。


「はじめまして。東京の桜橋高校というところから転校してきました鈴村日陽です。好きな食べものはとうもろこしで星座は獅子座です。趣味は映画を観ることです。みんなのおすすめの映画があったら是非教えてください。みんなと仲良くなりたいです。どうぞよろしくお願いします。」

っ言ってにこっと笑って礼をするっと。

よし、完璧だ。

とガッツポーズを決める。

ダメだ。緊張しすぎて1人でしゃべってポーズ決めてこんなんだれかに見られてたらやばい奴だな。


だれかに見られたらと想像してクスッと笑う。


はずかしすぎて、たぶん死んじゃうな。



ガラッ

「へっ?」

まだ、だれも来ないと思っていた私はびっくりしてすっとんきょうな声を出してしまった。


「あ、えっと転校生の方ですか?」


相手が聞いてくれてるのに私は答えるのを忘れてしまうぐらい彼に見とれてしまった。

癖のある黒髪に吸い込まれそうなぱっちりとした目。


わかった。あの人に似てるんだ、、、、。


脳裏に過去の思い出が浮かぶ。

もう、忘れると決めたあの人。


「あのー、、、。」

控えめに声をかけてくる男の子に気づいて答える。


「はい。」


今度は向こうが私のことを不思議そうにまじまじと見てくる。

え?わたしなんかおかしい格好でもしてるかな?


彼の近くにある鏡に自分の姿が映る。

はっ。

そういえば一人でガッツポーズを決めていたんだった。



顔が熱くなるのを感じる。



ばっと勢いよくガッツポーズを決めていた手を下ろして正しい姿勢になる。


恥ずかしくて前を向けずにいると


「はじめまして、級長の須田夕弦(すだゆづる)です。今から教室に案内しますが、来られますか?」



「は、、い。」



あー、向こうは自己紹介してくれたんだから私もすれば良かったのかな?感じ悪かったのかな?


でも、今さらするのはさっきのガッツポーズを見られてしまった件もあるし恥ずかしすぎる。


とはいえ、このままなにも話さなくていいのか?


向こうはさっきから窓を見ながら全くこっちのことも気にしないし、、、、。



もんもんと考えていたら前を歩いている須田くんがピタッと止まって、思わずぶつかりそうになる。


「ここが教室だから転校生さんはここから入ってね。俺は後ろから入るので。」


こくこくこく。


緊張のあまり声も出なくなってきて頷くことだけで精一杯だった。


そんな必死のうなずきを見ることも無く須田くんは後ろの方に歩いていた。

ありがとうって言うべきだったよね、、、。


どうしようもないな、、私。


うんう、とにかく失敗したらやり直せるうちにやり直せばいいんだから。

とりあえず自己紹介頑張ろう。



「、、、、、、。」



あれ?なんだか足が動かないみたい。


なんだか喉も乾いてきて。


意識していないと呼吸すら忘れそうになる。



「さっきみたいのやればいいんじゃん?」


耳元に囁かれてびっくりして後ろに振り返ると目の前に顔があってさらにパニックを起こす。


あ、体動いた、、、。

ん?



「さっ、、、、きのっ、、、て、?」




ぎゃーー。聞かれてたんだ。

「な!!!!で!!!き!!え??」


「なに言ってるか分からないよ、転校生さん?」


クスクスと顔をくしゃくしゃにして笑う。


あ、この笑顔。


何でだろ笑われてるのにきゅんってしてしまった。


何ではじめてあった須田くんにあの人の面影を私は重ねてしまっているんだろう。


鼻の奥がつんっとした。


「ほら、皆待ってるよ。」


須田くんは私の肩に手をのせてぐるんっとドアの方に私の向きを変える。

そしてそのまま、ドアを開けて私を押して教室に入っていく。


「ほら、転校生連れてきったよ~♪」


「おい、ゆづ、転校生の顔見てみろよ。」


にやにやしながら前の席にいるチャラそうな男子が言うと、須田くんは私の顔をのぞきこんだ。



「あら、真っ赤か。」


どっとクラスの皆が笑った。


なにこれ?転校生いじめですか?


「いくら転校生がかわいいからって手~出すの早すぎだろ。」

おいおい、冗談でもかわいいとか止めてくれますか?私の場合その冗談はきつすぎるよ。


「え?早い者勝ちでしょ?」



何で普通に答えちゃってるんですか?ほんとにやめてください。


「ばかゆづ、そろそろ席に座んなさい。」


後ろの席の長い黒髪がさらさらですごくきれいで見とれてしまうほどの女の子が言った。


「なんで?親睦を深めてるだけなのに。」


「じゃあ、ゆづは今日お弁当無しでってことね。」


「それは困る。」


私からすぐに手を話した。


あなたは神ですか?女神様なのですか?


須田くんは私の背中をぽんっと一回叩いて席に戻っていった。

それが私にはなんだか頑張れって言われたような気がした。



「お?転校生来たか?」


え?先生いま気づいたのですか?
わりと前からいましたよ?


てかどこに隠れてどこから、出てきたんですか?

不思議な先生だな。


「じゃあ、ぱぱっと自己紹介よろしく!」


「え?」


「え?って自己紹介は転校してきたらするのわりと当たり前だろ?考えてきていないのか?」



やばい、、、。いろんなことがありすぎてもう練習した内容を忘れてしまったよ。とほほ、、、、。


「と、と、と、と、と、と、」


『と?』皆の声が揃う。



「と、とう、東京からき、、、きき、来た鈴村ひょっ、、ひ、ひよです。よ、よろしくお願いします?」


どっと笑いが起こる。


「緊張しすぎだろーー。」

「ひょってかわいすぎか。」


わーーーー最悪だぁーーー。

はずか死ぬっ。

「ははは、じゃあとりあえず鈴村は一番後ろの窓側の空いてる席にでも座って。」


はははってなんですか?先生までばかにしてる。


しかも横は須田くんだし、でも前の子がさっきの黒髪の子って言うのはなんだか嬉しい。


朝のSTが終わると早速前の子が後ろを振り向いて話しかけてくれた。

「ひよちゃん?私は田中千春。クラスの皆は基本的にちぃって呼んでるからひよちゃんもちぃって呼んでね。ひよちゃんは前の学校であだ名とかあった?」


鈴村さん。


中学時代は女子からも男子からもそう呼ばれていた。

「特になかったんだ。だからそういうのなんかいいよね。」



「そうなんだ。じゃあ、ひよちゃんにもなんかひよちゃんみたいにかわいいあだ名を作らないとね。」


にこっと笑う笑顔が眩しすぎる。

「ひよ吉」

横から須田君がつぶやいた。

「よくね?ひよ吉。なんかある昔の漫画に出てきたキャラっぽくて。」


「あんまかわいくないから、没。」

「がーん。」

「ぴぃ~ちゃんでよくない?ぴぃ~ちゃんで決定。」

「ふん、俺はひよ吉って呼ぶからな。」

口を膨らませてる顔が小さい子供みたいで思わず

クスッ

「ほら、ゆづのネーミングセンスの悪さをぴぃーちゃんも笑ってるで。」


「ひどいぞ、ひよ吉。俺とひよ吉は共通点たっぷりの最強コンビになる予定なのに。」


「共通点?」

ちぃが不思議そうに顔を傾ける。

「そう、共通点!まずね星座が獅子座、好きな食べものもとうもろこし、俺も映画見るの大好き!!な?ぜーんぶ一緒!」

練習で言ってたやつだ。やっぱ全部聞いてたのね、、、、、。


「てか、何でゆづはそんなにぴぃーちゃんのこと知ってるんだよ?」

後ろからさっきのちゃらそうな男子が入ってきた。

「え?エスパーだから?」


「ばーか。この二人いつもこんな感じだけどまぁ、信じられないかもしれないけど、悪いやつじゃないから仲良くしてやって?」


「なんだよ、信じれないかもしれないけどってどっからどう見てもこんな紳士いないだろ。」


「はいはい。」



クスッ

「仲いいんだね。みんな」


「まぁね、私とゆづは一応幼なじみって言う腐れ縁で、こっちは、、、そこまで仲良くないよ?なんかついてくるけど、、、。」


「おい、ひどくないか?」

「あ、そうだこのひっついてくるやつの自己紹介はまだだったよね?ほら、ちゃんとしろ!」


「ねぇねぇ、ゆづまでひどくない?もう知らない!ぴぃーちゃんと仲良くするもん。ぴぃーちゃん、俺は杉浦蓮音(すぎうらひろ)です。ひろって呼んでね。こいつらほんとに薄情だから気をつけて。」


口元に手を当てて最後だけささやくように言う。


「ひよ吉、ひろは相当な女好きだから気を付けろよ!」

前でちぃも大きく何度も頷く。

「そんなことないよ!ぴーちゃん。こいつら嘘つきだから。」