「いいなぁー、姫川今日早く帰れるじゃん」
隣の席の佐田君が、頬杖をつきながら、羨ましそうに言ってきた。
「そんなことないよ。まだまだやることいっぱいあるし」
「俺なんか、八王子さんのチェック入りまくりで、直しだらけだよ。
あー、やる気でねぇ」
佐田君はそのまま机に突っ伏してしまった。
「ま、まぁ。今日が終わればお休みだよ!ね?」
佐田君を慰めようと、壁のカレンダーを指差して明るく言った。
「週末…かぁ」
突っ伏した姿勢から顔だけを上げて、ぼんやりとカレンダーを眺める佐田君。
「そういえば俺、今週末、姉ちゃんの結婚式なんだよな」
「そうなの?おめでとう!」
祝福の言葉をかけると、佐田君は「ありがとう」と微笑んだ。
「けど聞いてくれよ。
明日用のネクタイを、寝ぼけて今日つけてきちまってさー」
「う、うん?」
「さっき昼飯でラーメンに落ちたんだぜ?」
「えぇっ!?」
驚く私に、佐田君は胸元の赤色のネクタイを掴んで見せた。

