空のピッチャーを手に席を立つ。
「姫川……!待って!」
厨房に向かう廊下に出ると、ふいに後ろから手を掴まれて振り返った。
「………佐田君?」
何も言わずに私の手首をつかんだままの佐田君。
さっきまでの、冗談言って笑っていた彼とは別人みたいな、思いつめた表情。
どうしたんだろう……?
「姫川………」
「なに?」
「…………っ」
言葉を押し込めるように唇を咬むと、佐田君は私の手を動かして、自分の腕に掴ませた。
「佐田君……?」
まるで、私が佐田君を取り押さえているみたいな恰好。
なんで私に自分を取り押さえさせて……
「……昨日、俺こんな風に姫川に止められてなかった?
勘違いだったら悪いんだけど」
「………っ」
背を向けたまま、伏し目がちに言う佐田君にドキッとした。
疑ってるんだ、佐田君は。
私や八王子さんが上手く誤魔化したところで、事実は変わらない。
昨日の光景を彼は覚えていて、それでいて、私達の行動を不審に思っている。
いったいどう答えたら……

