あまりに普通すぎる日常。
書類に付箋を貼る八王子さんを、ぼーっと眺めていると、ふと八王子さんが私の方を見た。
「…………っ//」
条件反射でびくっと肩が震える。
「……………」
それでも、八王子さんは表情一つ変えずに、再び書類に視線を戻した。
八王子さん………
ちくりと痛んだ胸に手を当てる。
何、この痛み。
まるで昨日のことが夢だったみたい……。
八王子さんの態度が普通すぎて、昨日のことは全部夢の中の出来事で
本当に私と佐田君は八王子さんに会ってないんじゃないか、
そんな錯覚にさえ陥りそうになる。
婚約者のふりって一体どういうことなんだろう……
八王子さんは何を考えてるのだろう……
キーボードに置いた手が止まっていることさえ忘れてしまう。
「………姫、川」
うつむく私は、佐田君が呼んだことも、
彼がどんな表情をしていたかも、何も気づかなかったんだ……

