ドキドキしながらインターホンに手を伸ばし、ピンポーンと鳴らした。
『はい……』
スピーカー越しの声でも、具合が悪そうなのが伝わってくる。
「姫川です」
『鍵開けて、入って』
そう言って、彼の声はプツッと途絶えた。
わかってはいたことだけど、いざ目の前まで来るとドキドキする……。
おそるおそるカードキーを差し込むと、ドアノブ横に緑色のランプがつく。震える手を伸ばし、ガチャッと開けた。
その瞬間、八王子さんの香りが鼻を掠める。
玄関には八王子さんが会社で履いている黒靴に、おしゃれなスニーカーが並べられており。サイドには白い下駄箱。その上の籠にブランドのキーケース。
その奥のドアのガラス部分から、明かりが漏れている。
男の人の部屋に入るのなんて、いつ以来だろう。とりあえず勤めてからは一度もないかもしれない。
「お邪魔します」

